「ステージゲートは採用したけど、プロセスの運用が形骸化して通過が慣例になってしまった」
「各ステージでの提出資料作成に時間がかかりすぎ、本来の事業推進がおろそかになっている」
「プロジェクトの特性や規模に合わせた柔軟なステージ設計ができていない」
「ゲート通過基準が曖昧で、どうすれば合格なのか審査する側で迷ってしまう」
新規事業を立ち上げるためにステージゲート法でプロジェクト管理を始めたけど、上のような事態になってしまったことありませんか?新規事業の進捗管理におけるステージゲートプロセスは重要な役割を果たしますが、その運用には様々な課題がつきものです。
今回は、新規事業の進捗管理を担当する方々に向けて、ステージゲートプロセスにおける課題解決に焦点を当て、ステージ判定の客観性確保という悩ましい問題に対するAIの活用、そして過去のプロジェクト活動の履歴管理による未来の新規事業への貢献について解説します。ステージゲートにおける課題解決、そして新規事業担当マネージャー必見のポイントに絞り、特に重要な課題とその解決策について掘り下げていき、新規事業の成功確率を向上させるための具体的なアプローチを提案してみたいと思います。
1. ステージ判定の客観性確保:AIによる支援
ステージゲートにおける最も一般的な課題の一つは、ステージ判定の客観性をどのように確保するかという点です。例えば、この課題に関する一般的な悩みとして、
判定者(管理者や役員など)の個人的な好き嫌いや過去の成功体験によって、公正な評価がされない。
客観的なデータよりも、担当者の熱意やプレゼン能力が評価を左右してしまう。
市場や技術の急速な変化に、従来の静的な評価基準が追いついていない。
「失敗を恐れる文化」があり、客観的にリスクが高い案件でも、誰も中止を提言できない。
といった、判断基準が判定者の主観や経験に左右されることが原因で、結果として適切な判断が下されない問題が挙げられます。
この問題を解決するために、AIを活用した過去の成功・失敗事例、市場データ、競合情報など、膨大なデータを分析し客観的な評価指標を提供できる支援システムが有効でしょう。
ステージゲートプロセスは新製品開発の成功率を高めるために広く利用され、いかに有効に運用できるかによって意思決定の質が大きく左右されると言われている中で、近年のある研究では、機械学習アルゴリズムを用いて過去のプロジェクトデータから成功要因を学習し、進行中のプロジェクトの成功確率を予測することで、意思決定の客観性と効率性を高める研究が進められているとしています。(論文名:AI-Based Expert System framework for Product Development Stage-Gate Decisions 著者:Azim Zarei)
具体的なAI活用の具体的なステップとしては、
- ①データ収集:
過去の新規事業案件に関するデータを収集。
市場調査データ、顧客フィードバック、財務データ、技術的な評価などを含む。
- ②AIモデル構築:
収集したデータに基づいて、AIモデルを構築。
このモデルは、各ステージの通過基準を学習し、案件の進捗状況を評価。
- ③評価指標の提供:
AIモデルは、各案件に対して客観的な評価指標を提供。
これにより判定者は主観的な判断に頼らず、データに基づいた意思決定を行うことが可能。
- ④継続的な改善:
新しいデータが追加されるたびに学習し、精度を向上。
ステージ判定の客観性が維持され、より適切な判断が可能。
2. ステージ判定は誰が決める?:責任の明確化と合意形成
ステージ判定の責任者が曖昧であることも、ステージゲートプロセスにおける課題の一つです。責任の所在が不明確な場合、判断が遅れたり、責任逃れが発生したりする可能性があります。
この意思決定に関する一般的な課題としては、主に、ゲート判定メンバー間で部門ごとの利害が衝突し、結論が出ない(例:開発部門は技術追求、事業部門は早期リリースを主張)ことや、プロジェクトの中止の判断が、誰の責任になるかを恐れて先延ばしにされてしまうことがあります。ほかにも、意思決定者が忙しすぎて、必要なタイミングでゲート会議が開催できず、進捗が停滞してしまったり、判定基準が満たされていないのに、上層部の政治的な圧力で強行突破されてしまうということもよくあるケースです。
これらの問題を解決するためには、ステージ判定の責任者を明確にし、関係者間の合意形成を促進することが重要です。
「効果的なステージゲートプロセスには、各ゲートにおける意思決定権者(Gatekeeper)の明確な定義が不可欠である。特に、異なる機能部門(技術、マーケティング、財務など)の代表者から構成されるゲートキーパーチームによる合意形成は、プロジェクトに対する部門横断的なコミットメントを確保し、偏った意思決定を防ぐ上で極めて重要となる。」
書籍名:Winning at New Products: Accelerating the Process from Idea to Launch (Sixth Edition)著者:Robert G. Cooper
具体的な責任の明確化と合意形成のステップとしては、
- ①責任者の定義:
各ステージの判定責任者を明確に定義。
事業責任者、技術責任者、マーケティング責任者などを含む。
- ②判定基準の共有:
各ステージの判定基準を関係者間で共有し、共通認識を形成。
- ③合意形成のプロセス:
ステージ判定を行う際には、上記関係者間で議論し合意形成。
必要に応じて、外部の専門家を招き、客観的な意見を求めることも有効。
- ④記録の作成:
ステージ判定の結果とその理由を記録し、関係者間で共有。
この結果、透明性が確保され、責任の所在が明確になる。
3. 過去のプロジェクト活動履歴の有効活用:未来の新規事業への貢献
実は多くの企業で課題と認識されていながらなかなか進まない活動として、過去のプロジェクトの成功事例や失敗事例の蓄積と、その活用ができていないことが挙げられます。
例えば、過去の中止案件の資料やデータが担当者のPCの中に埋もれてしまい、組織的な知恵として活用されないことや、過去の失敗が「負の遺産」として扱われ、誰も進んで再評価や分析をしたがらないこともよく聞かれることです。それ以外にも、中止理由や学習事項を体系的に記録するフォーマットや時間がないため、形式的な書類しか残らないという工数の問題や、中止案件の技術的資産や顧客フィードバックが、他の新規事業のアイデアに紐づけられないといったナレッジマネジメントの仕組み不足の問題も挙げられます。
その一方で、ある研究では、大手企業の中には中止されたプロジェクトのデータや学んだ教訓を『ナレッジベース』として体系的に蓄積し、新規事業部門全体で共有する仕組みを導入している事例があるとし、これにより、過去の失敗要因を回避し、技術的な障害や市場の誤解に関する洞察を次のプロジェクトに活かすことが可能となり、結果として全体の開発期間短縮や成功率向上に貢献できると言われています。
研究成果を待たずとも直観的も理解できると思いますが、なかなか仕組みとして構築できないことが悩みであり、まさに、過去のプロジェクト活動の履歴管理ができている企業こそが、競争優位性を築ける時代になったということだと思います。
過去案件の有効活用のステップとしては、
- ①履歴管理:
成功プロジェクトだけでなく途中で止まった案件に関する情報も時間軸にて体系的に管理。
アイデアの概要、市場調査の結果、技術的な課題、中止理由などが含む。
- ②分析:
過去の案件を分析し、成功・失敗の要因を特定。
- ③知識の共有:
分析結果を関係者間で共有し、今後の新規事業の企画・開発に役立てる。
- ④再評価:
定期的に再評価を行い、新たな可能性を探索。
過去に中止された案件でも、市場環境の変化や技術革新によって、実現可能になる場合がある。
まとめ:AIと過去案件の活用で新規事業を成功に導く
ステージゲートプロセスにおける課題解決は、新規事業の成功に不可欠です。AIを活用した客観的な評価指標の導入、責任の明確化と合意形成の促進、そして過去案件の有効活用を通じて、新規事業の成功確率を向上させることができます。これらの施策を積極的に導入し、新規事業の推進を加速させましょう。